野球の試合観戦中やプレー中に、実況やスコアブックで耳にする「野選(やせん)」という言葉。正式名称は「野手選択」ですが、ファンやプレーヤーの間でも「エラーなのかヒットなのか、それとも野選なのか」と判断に迷うシーンが少なくありません。ルール上の定義やヒット・エラーとの明確な違い、そして実際の試合でどのように判定されるのかを知ることで、野球観戦の解像度は一気に上がります。
本記事では、2026年現在の公式野球規則に基づき、野選の基本的な意味から具体的なシチュエーション、判断基準、スコア上の記録の扱いまでを徹底的に解説します。曖昧になりがちな野球のルールを整理し、より深く野球を楽しむための知識を身につけましょう。
野球の「野選(野手選択)」とは何か?基本定義と発生する仕組み

野球における野選(やせん)とは、正式名称を「野手選択(Fielder's Choice)」と呼び公認野球規則にも定められている公式記録の一つです。基本的には、打者が放った内野ゴロなどの打球に対して、野手が「一塁にいる打者走者」ではなく、前を走る「先頭の走者」や「より進塁を阻止したい走者」をアウトにしようと別の塁へ送球した結果、結果として打者の出塁を許してしまった現象を指します。
例えば、無死一塁の場面で強いショートゴロが飛んだとします。遊撃手は二塁ベースカバーに入った二塁手へトスして一塁走者をフォースアウトにしようと試みました。しかし、送球がわずかに遅れて一塁走者がセーフになり、さらに一塁への転送も間に合わなかった場合、このプレーは「野選」となります。打者は出塁していますが、守備側が別の走者を狙ったための結果であるため、ヒットとしては記録されません。
このように、野手があえて打者以外の走者をアウトにしようと選択した代償として、打者の出塁を許してしまうのが野選の基本的なメカニズムです。攻撃側にとっては「結果的にラッキーな出塁」となり、守備側にとっては「狙いは良かったがアウトを取れなかった判断の岐路」となります。
ヒットやエラーとの違いは?スコア上の判定基準を徹底比較
野球のスコアブックや記録において、「ヒット」「エラー」「野選」の3つは混同されやすいポイントです。それぞれの違いを明確に理解することで、試合の公式記録に対する納得感が増します。以下にそれぞれの違いと特徴を比較表でまとめました。
| 記録の種類 | 定義・発生する条件 | 打者の打率・出塁率への影響 | 守備側の責任 |
|---|---|---|---|
| ヒット(安打) | 野手が通常の守備行為を行ってもアウトにできなかった、フェア地域へのクリーンヒットや内野安打。 | 打数・安打数にカウントされ、打率が上がる。 | 守備のミスなし(防げない打球)。 |
| エラー(失策) | 通常の守備行為を行っていれば確実にアウトにできたはずの打球や送球を、野手が落球・悪送球したとき。 | 打数は増えるが安打にはならず、出塁率は上がる(打率は下がる要因に)。 | 明確な守備のミス(ミスによる出塁)。 |
| 野選(野手選択) | 野手が別の走者をアウトにしようと試みた結果、打者の出塁を許したプレー。 | 打数は増えるが安打にはならず、エラーとも記録されない。 | ミスではなく「他の走者を狙った作戦・選択の結果」。 |
大きな違いは、「野手がミスをしたかどうか」と「どこをアウトにしようとしたか」です。エラーは単純な捕球・送球ミスですが、野選は「ミスをしたから出塁させた」のではなく、「より進塁を阻止したい走者を狙った結果として打者が生き残った」という違いがあります。そのため、野選で出塁した打者にヒットはつきません。
よくある具体例で理解する!野選が宣告されるシチュエーション
実際の試合では、どのような場面で野選が記録されるのでしょうか。代表的な3つの具体例を見ていきます。
1. 無死または一死一塁でのゴロによるフォースアウト狙い
最も多いのが、ランナー一塁の場面で内野ゴロが飛んだケースです。セカンドやショートが、一塁へ直接送球すれば確実に打者走者をアウトにできたにもかかわらず、併殺(ダブルプレー)を狙うか、あるいは二塁走者の進塁を防ぐために二塁へ送球し、それがセーフになった場合。この時点で打者は一塁に生き残りますが、これは野選となります。
2. 本塁(ホーム)でのクロスプレーを狙った場合
ランナー二塁または三塁のピンチで、内野ゴロが転がった場面です。内野手が「ホームで走者をタッチアウトにできる」と判断し、一塁ではなく本塁へ送球したものの、走者がセーフになってしまったケース。この場合も、打者に対する守備機会を放棄して別の走者を狙ったため、野選が記録されます。
3. 挟み撃ち(ランダウンプレー)に持ち込んだ場合
塁間に飛び出した走者を挟み撃びにして追いかけたものの、最終的に走者をアウトにできず、その間に打者走者が安全に一塁(あるいはそれ以上の塁)へ到達した場合も野選と判定されることがあります。
守備側の判断基準:なぜ野手はその塁へ送球するのか?
野選が起きるとき、グラウンド上の野手は一瞬のうちに高度な判断を下しています。では、守備側はどのような基準で「打者ではなく他の走者を狙う」という選択をしているのでしょうか。
最大の目的は「失点を防ぐこと」と「試合の流れを断ち切ること」です。例えば、得点圏に走者を背負っている場面では、単に打者を一塁でアウトにする(アウトカウントを1つ増やす)ことよりも、ホームベースを踏ませないことの方がチームにとって優先度が高くなります。そのため、三塁走者や二塁走者をアウトにできる可能性がわずかでもあるなら、野手は本塁や次の塁への送球を選択します。
また、ダブルプレー(併殺)が狙える場面であれば、二つのアウトを同時に奪ってイニングを終わらせるために、二塁ベースへトスすることが最善の判断となります。野選は決して「守備の失敗」ばかりではなく、「最善の失点防止策を講じた結果の副産物」である場合も多いのが特徴です。
【野選とは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:野選で出塁した場合、打者の「打率」や「出塁率」はどう扱われますか?
A1:野選での出塁はヒット(安打)としては記録されません。公式記録上は「打数」にカウントされますが「安打」にはならないため、打率は下がります。また、四死球やエラーとは異なるため、通常の出塁率の計算上もヒットによる出塁としては扱われません。
Q2:内野手がファンブル(お手玉)した後に別の塁へ投げたら、それは野選になりますか、それともエラーになりますか?
A2:野手が打球を捕球する際に致命的なファンブルやエラーをし、その動揺や時間ロスから他の塁へ送球してセーフになった場合、記録員が「本来ならエラーによって出塁した」と判断すれば、野選ではなくエラー(失策)と判定されることがあります。判断の境界線は「通常の守備行為でアウトにできた可能性が明らかに失われたかどうか」になります。
Q3:ランナーがいない(走者なし)の状況で野選が起きることはありますか?
A3:いいえ、ありません。野選の定義が「打者以外の走者をアウトにしようとして起こるプレー」であるため、走者が一人もいない状況では発生しようがありません。走者なしの場面で野手が送球を誤った場合は、すべてエラー(失策)またはヒットの判定となります。
野球における「野選(野手選択)」は、一見するとエラーやヒットのようにも見え、初心者にとっては少し分かりにくい記録可能性があります。しかしその本質は、野手が試合の状況を冷静に判断し、より重要な走者をアウトにしようと試みた「守備側の積極的な決断の軌跡」です。
ルールブック上の定義やヒット・エラーとの違いを知ることで、プロ野球の試合やアマチュア野球を観戦する際、内野手が瞬時に下した判断の意図まで読み取れるようになります。次に試合で野選がコールされたときは、選手がどの走者を狙ったのか、なぜその判断を下したのかに注目してみると、より一層野球観戦の面白さが広がるはずです。